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脳卒中後の「言葉が出ない」に頭皮鍼と言語リハビリの併用研究をご紹介

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「伝えたいことはあるのに、言葉が出てこない」「目の前の物の名前が思い出せない」。脳卒中後には、このような言葉の不自由さが残ることがあります。

今回は、2026年10月8日に学術誌『Chinese Medicine』に掲載された、頭皮への鍼と言語リハビリテーションを組み合わせた研究をご紹介します。言葉の検査に加え、MRIで脳の神経ネットワークも調べている点が特徴です。アイユート鍼灸院・名寄本院の院長、川瀬邦裕が、研究から分かったことと、まだ分からないことを整理します。

目次

脳卒中後の「言葉が出ない」を調べた研究

今回の研究が対象にしたのは、脳卒中後の「喚語困難(かんごこんなん)」です。物や人などの名前を、必要なときにうまく思い出して言えなくなる状態を指します。失語症で見られる症状の一つです。

例えば、コップを見て名前を答えることも、研究では評価の対象になります。論文では、こうした名前を言う力を「呼称能力」として調べています。

研究者たちは、通常の脳卒中治療と言語リハビリに頭皮鍼を加えることで、呼称能力の回復に違いが出るかを検討しました。鍼だけで言葉が回復するかを調べた研究ではありません。

言語リハビリ中に頭皮鍼を併用

研究では、脳卒中後に喚語困難を認める患者さん85人を募集し、頭皮鍼を併用する群と、併用しない対照群に無作為に分けました。対象は、初めての脳卒中から2週間~6か月の方など、一定の条件を満たした患者さんです。

比較した群受けた介入
対照群通常の脳卒中治療+言語リハビリ
頭皮鍼群通常の脳卒中治療+置鍼中の言語リハビリ

言語リハビリは1回30分、1日1回、週5日、4週間行われました。頭皮鍼群では、頭皮に鍼を刺したまま一定時間置く「置鍼」の間に、言語リハビリを同時に実施しています。

なお、論文で示された臨床・MRIデータの解析対象は、両方のデータがそろった57人でした。内訳は頭皮鍼群30人、対照群27人です。募集した85人全員の結果が、そのまま解析に含まれているわけではない点も大切です。

頭皮鍼を併用した群で、呼称能力の改善が大きかった

4週間後の比較では、頭皮鍼群の方が、主要な評価項目である呼称課題の合計点で大きな改善を示しました。物の名前を答える課題、文の続きを完成させる課題、質問に応じて言葉を答える課題などでも、群間の違いが認められています。

また、生活の質を評価する質問票のうち、コミュニケーションに関する領域でも、頭皮鍼群の改善が大きいという結果でした。ただし、すべての検査項目や生活の質全体で、明確な差が出たわけではありません。

この結果は、言語リハビリに頭皮鍼を組み合わせる方法を、さらに検討する手がかりになります。一方で、個々の患者さんがどの程度改善するかや、日常会話がどこまで回復するかを、この研究だけから予測することはできません。

脳の「つながり」にも変化が見られました

この研究では、言葉の検査だけでなく、「DTI(拡散テンソル画像)」というMRIの撮影・解析方法を使っています。脳の神経線維の状態や、領域同士のつながりを調べるための方法です。

言葉を理解し、思い出し、声にする過程には、複数の脳領域の連携が関わります。道路網にたとえると、一つの交差点だけではなく、それぞれの場所を結ぶ道の状態や、道全体のつながり方を見るイメージです。

解析では、頭皮鍼群と対照群の間で、言語に関係する脳ネットワークの指標に違いが見られました。また、左鉤状束(ひだりこうじょうそく)という神経線維の束では、画像指標の変化量と呼称能力の改善量に関連が認められています。

ただし、これは「鍼によって神経が再生した」「脳の損傷が修復された」と証明した結果ではありません。言葉の改善とともに脳画像にも変化が見られた、という段階です。その変化が改善を引き起こしたのかどうかは、さらに調べる必要があります。

研究結果を読むときに知っておきたい限界

期待につながる結果ですが、論文の著者たちも、いくつかの限界を挙げています。特に、評価したのは4週間の介入が終わった直後までであり、改善が長く続くかどうかは分かっていません。

  • 長期間の効果は確認されていない
  • 脳画像の解析対象が比較的少なく、開始前の画像指標にも一部の群間差があった
  • 偽の鍼を用いた比較は行っていない
  • 患者さんと施術者は、頭皮鍼を行う群かどうかを把握していた

そのため、鍼への期待や、施術を受けることに伴う影響を十分に切り分けられていません。画像の変化についても探索的な結果であり、効果を予測できる検査として確立されたものではありません。

「一つの研究で効果が確定した」と受け止めるのではなく、より多くの患者さんを対象とした研究や、長期間の経過を調べる研究につなげていく段階と考えるのが適切です。

今回の頭皮鍼と、当院のYNSAについて

当院では、施術方法の一つとしてYNSA(山元式新頭鍼療法)を取り入れています。そのため、頭部への鍼と言語機能に関する今回の研究には、関心を持っています。

ただし、今回の論文で用いられたのは、頭皮上の特定の線状部位に施術する方法です。当院で行うYNSAの効果を直接検証した研究ではありません。頭に鍼をするという共通点だけで、同じ結果が得られると説明することはできません。

また、今回の研究は、通常の脳卒中治療と言語リハビリを続けたうえで行われています。鍼灸を検討する場合も、医療機関での治療や言語聴覚士によるリハビリを自己判断で中断せず、主治医やリハビリ担当者に相談することが大切です。

言葉の回復を支える選択肢を、慎重に考えるために

今回の研究は、言語リハビリに頭皮鍼を併用した群で呼称能力などの改善が大きく、脳のネットワークにも関連する変化が見られたと報告しています。言葉の回復を支える補助的な方法を考えるうえで、興味深い研究です。

当院でも、研究で示された可能性と限界の両方を大切にしながら、鍼灸に関する情報をお伝えしていきます。脳卒中後の症状について鍼灸を検討されている方は、主治医の方針や、受けているリハビリの内容を踏まえてご相談ください。なお、本記事は研究の紹介であり、当院で同じ介入や結果を提供することを示すものではありません。

参考論文

Song J, et al. Scalp acupuncture coupled with speech-language therapy modulates the ventral-dorsal structural brain network in patients with post-stroke anomia: a randomized clinical and DTI neuroimaging trial. Chinese Medicine. 2026;21:226.

公開日:2026年10月8日
DOI:10.1186/s13020-026-01501-1
論文全文を読む(英語・無料公開)


院長:川瀬

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