
院長:川瀬お気軽にご相談ください!
少しだけ、耳のことを聞かせてください。夜、部屋が静まり返るほど耳の奥の音が際立ってくる、という経験はありませんか。
「キーン」「ジー」と鳴り続けるあの感覚、慣れようとしても慣れられないのが正直なところだと思います。病院で検査を受けたのに「異常なし」と言われた。薬をもらっても大きな変化がない。そんな状況で「他に何かできないか」と探し始めるのは、ごく自然なことです。
今回は、耳鳴りのケアに東洋医学がどう向き合ってきたか、そしてツボへのアプローチにどんな意味があるのかについて、27年間の施術経験を持つ鍼灸師の立場からお伝えします。


ツボは「なんとなく押せばいい」というものではありません。なぜそこを使うのかという根拠があってこそ効果が生まれます。今回の内容を参考に、まずはご自身の体の声に耳を傾けてみてください


東洋医学では、耳鳴りを「耳だけの問題」とはとらえません。全身の気・血・水のめぐりが乱れたとき、その影響が耳という形で現れてくると考えます。この視点が、ツボを使ったアプローチの根拠にもなっています。
特に深く関係するのが「腎(じん)」という概念です。東洋医学では腎は耳と密接につながる臓器とされており、加齢や慢性的な疲労によって腎の働きが低下すると、耳鳴りや聴力の変化が起こりやすくなると考えられています。
もうひとつ注目したいのが「肝(かん)」の状態です。日々のストレスや精神的な緊張が続くと、肝の気が上へ昇りやすくなり、頭部や耳に熱がこもった状態になることがあります。これが耳鳴りとして現れることも少なくありません。
耳鳴りの音がどんな種類かは、東洋医学的な判断の手がかりになります。高音の「キーン」という音は、熱の上昇や気の流れの停滞と関連することが多いとされています。
一方、低音の「ジー」「ボー」という音は、腎のエネルギー不足や水分代謝の乱れと結びつくことが多いです。ご自身の耳鳴りがどちらに近いかを意識するだけで、ケアの方向性が変わってきます。
ここでは、鍼灸の施術でも実際によく使われる耳鳴り関連のツボをいくつかご紹介します。位置の目安と刺激のポイントをお伝えしますので、日常のセルフケアの参考にしてみてください。
ただし、ツボへの反応には個人差があります。症状が長期間続いている方や、めまいや難聴を伴っている方は、まず専門家への相談を優先することをおすすめします。
聴宮は耳の穴の前にある小さな突起(耳珠)のすぐ前、口を軽く開けるとできるくぼみに位置します。「聴く宮殿」という名が示すように、耳の機能に直接働きかけるとされる代表的なツボです。
耳鳴りだけでなく、難聴や耳の詰まり感にも広く使われます。人差し指か中指の腹を当て、軽い圧で3〜5秒押してゆっくり離す動作を5〜10回繰り返してみてください。呼吸を整えながらゆっくり行うのがポイントです。
翳風は耳たぶの後ろ、乳様突起という骨の出っ張りと耳たぶの境目あたりに位置します。三焦経(さんしょうけい)というエネルギーの通り道上にあり、耳まわりの血流を促して気の流れを整える働きが期待されます。
聴宮と組み合わせて使われることが多いツボです。指の腹で小さな円を描くように優しくほぐすと、耳まわりの緊張が和らいでくる感覚を得やすいです。
中渚は手の甲、薬指と小指の間を手首方向にたどったくぼみに位置します。耳からは遠い場所ですが、翳風と同じ三焦経のルート上にあり、耳鳴りや難聴に対して古くから用いられてきたツボです。
耳から遠い手や足のツボから耳の症状に働きかけるのが、東洋医学ならではのアプローチです。デスクワーク中や電車の移動中でも刺激しやすい場所なので、日常的なセルフケアに取り入れやすいです。
侠渓は足の甲、薬指と小指の間のつけ根近くに位置します。胆経(たんけい)のルート上のツボで、頭部への熱の上昇を鎮める働きが期待されます。
特にストレスが引き金となっている耳鳴りや、高音が続くタイプの耳鳴りに用いられることが多いです。靴を脱いだタイミングに押してみるのがおすすめです。
腎兪は背中、第2腰椎の棘突起の外側2横指ほどのところに位置します。腎の機能を補うとされる代表的なツボで、腎と深く関係する耳の症状へのアプローチに欠かせない場所とされています。
加齢による耳鳴りや慢性的に続く耳鳴りには、この腎兪へのアプローチが特に重要です。自分では押しにくい場所ですが、テニスボールを背中と床の間に挟む方法や、使い捨てカイロで温めるだけでも十分な刺激になります。


ツボを押してみたけれどあまり変わらないという方も、もちろんいらっしゃいます。それには理由があります。押している場所がわずかにずれている可能性、刺激の深さや時間が合っていない可能性、あるいはそもそも別の原因が関係しているという可能性です。
耳鳴りの背景にある原因は一人ひとり異なり、複数の要因が絡み合っているケースも多いです。表面的なセルフケアだけではなかなか届かない部分があることも、正直なところです。
鍼は指では届かない深さに刺激を届けることができます。そして全身の状態を確認しながら、その人に本当に必要なツボを選び、組み合わせるのが鍼灸師の仕事です。
「なぜ今日はこのツボを使うのか」という根拠が常にある。セルフケアとの最大の違いはここにあります。同じ場所を押すにしても、理由を知っているかどうかで、体への問いかけの深さがまったく変わってきます。
当院では耳鳴りの方に対しても、まず姿勢分析システムを使った検査から入ります。耳鳴りの原因が耳だけにあるとは限らないからです。首や肩の緊張、顎まわりの硬さ、自律神経の乱れといった全身のバランスの問題が耳に影響していることが、施術経験の中で非常に多くわかっています。
原因の場所と程度が明確になれば、施術の方向性も変わります。YNSA(頭皮に鍼を施す手法)や整動鍼など、再現性の高い手法の中からその方の状態に合ったものを選び、オーダーメイドで施術を組み立てていきます。
検査で明らかになった内容はその場で可視化してお伝えします。「なぜこの施術をするのか」を患者さん自身が理解したうえで進めていただけるのが、当院の大切にしていることのひとつです。
薬に頼りたくない方、病院でのアプローチで改善を感じられなかった方が、鍼灸を選んで来院されることが多いです。当院でも、「夜よく眠れるようになった」「あの音が気にならなくなってきた」という声を少しずつ積み重ねてきました。
すぐに完全に消えるとは限りませんが、体が整っていく中で耳鳴りの感じ方が変わっていくことを、多くの方が経験されています。一歩ずつ、確実に変わっていく体の変化を、一緒に確認していきましょう。
耳鳴りは長く続くほど「もうこれが普通なんだ」とあきらめてしまいやすい症状です。でも、音のない静かな夜を取り戻したいという気持ちは、きっと本音のはずです。
今回ご紹介したツボへのアプローチは、体の状態に気づくための大切な一歩です。ぜひ今日から試してみてください。そして「もっと根本から変えたい」「一人ではよくわからない」と感じたときには、どうか一人で抱え込まずに声をかけてください。
27年間・延べ10万人以上の施術実績を持つ院長が、あなたの体の状態を丁寧に確認したうえで向き合います。どんなことでも、まずはお気軽にご相談いただけると嬉しいです。

